超残光性の蛍光体は、現在、時計の文字盤、非常口の表示、日常の機器や器具に広く使われている夜光塗料用の蛍光体である。しかし、いま身近に使われている夜光塗料とかつてのものとでは、決定的にちがう点がある。夜光塗料は20世紀の初めに、放射性同位元素である「ラジウム226」と「硫化亜鉛系蛍光体」とを混ぜた塗料として発明された。ラジウムからつねに放射されるa線(a粒子、つまりヘリウム原子核の粒子線)が硫化亜鉛系蛍光体にエネルギーを与え、暗闇でも(もちろん日中でも)蛍光をつねに発するように工夫したものである。1960年になって、取り扱いがむずかしいラジウムに代わり、「プロメチウム47」が使用されるようになった。ラジウムは自然に存在する物質だが、プロメチウムは人工物である。また、プロメチウム47が出すのはa線ではなく尽線(高速の電子線)である。プロメチウムは、人間に火を使うことを教えたギリシヤ神話のプロメテウスの名にちなんだ元素であり、夜光塗料に使われるようになったのも何かの因縁であろう。しかし1990年代になって、放射能の環境への影響が懸念されるようになったため、今日では放射性物質を含まない夜光塗料が主流になっている。さきほども述べた、超残光性の蛍光体が日本の企業によって開発され、放射性同位元素を用いた夜光塗料は一掃された。この蛍光体は「アルミン酸ストロンチウム」という物質に、第3話で紹介した「希土類元素」のユウロピウムとディスプロジウムを微量に添加した、高性能の新しい蛍光体である。1000年前の宋の太宗の「光る牛」、そして400年前のボローニア石の復活と言えようか。